7/10/98
“後知恵”
私が小学校にいっていたころ、書道の筆が古くなったので、新しいのを買いたいと母に言いました
。 彼女は“弘法は筆を選ばず。”といって買ってくれませんでした。 母がその言葉の意味をよく
わかって(分かって・解って・判って)使っていたとはおもえません。
絵を描きだして十数年経った現在、“弘法は筆を選ばず”という言葉は創造という事にどれほど深
く関わっているかということが分かりだしました。 今の時代、いろいろの機械・器具が作りだされ
て、コンピューターを含めて、人間の用に貢献してきていますが、それらは人間が考える目的とい
うものを、その誕生の時から持たされています。
それに比べて、ちびた筆というのは、創造もつかない線を紙の上に生み出します。
考えてください。 新品の筆の線というのは、おそらく書く前から想像のつくものでしょう。 それ
ほどアーティストにとって面白くないことはありません。
線一本引くにしてもどんな線がでてくるか予測がつかない、これほど私を興奮させることはありま
せん。 絵を書くことによって、はじめて、“弘法は筆を選ばず”という格言が創造についての言葉
であることを追認しました。
これに類似したようなことを、日々絵を描くことをとおして、何度も経験しました。これを私は、
“後知恵”とよんでいます。
絵を描く前には、色のこと、形のこと、紙のこと、絵の具のこと、絵を描く私のこと、絵と私に関
する全てのこと、絵のこと、絵と人間社会のこと、それらについての知恵はありません。 その完成
のときに後知恵としてでてきます。
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